教員の養成と資格要件 【教育と科学技術イノベーションの現況【2023年版】】  

2024.05.07

2-1-6 教員の養成と資格要件

 歴史的にみると多くの国で、教員の養成は初等教育段階の教員については(前期又は後期)中等教育課程の「教員養成所 (Teacher Training Center)」や我が国の戦前の「師範学校 (Normal School / Normal College / Teacher Training College)」のような教員養成を目的とする専門の機関において行われ、中等教育段階以降の教員については高等教育課程の「大学 (University)」や「高等師範学校 (Normal University)」のような機関で行われることがほとんどであった。その修学の年限については初等教育段階の教員については後期中等教育課程の2年ないし3年間、中等教育段階以降の教員については高等教育課程の2年から4年間という国が多かった。特殊な例として、一部のイスラム教の影響下にある国々(バングラデシュ等)においては、女性の社会進出を促すために女子の就学率を向上させる必要があり、そのためには女性教員の数を増やすことが急務であるとして、女性に限り初等教育段階の教員養成の年限を1年とした国もあった。

 現在では教員の質の向上がどこの国においても重要な課題となっているため、多くの国で教員の養成は大学や大学院レベルで行われているか、行われつつある。すなわち最低限でも学士号以上又はそれに準ずる学位を取得し、加えて教職に関連した単位を規定数以上取得した者に教員としての資格を認めるわけである。日本では教員の養成については「幅広い視野と高度の専門的知識・技能を兼ね備えた多様な人材を広く教育界に求めることを目的として、教員養成の教育は大学で行うこととした(「大学における教員養成」の原則)。また、国立・公立・私立のいずれの大学でも、教員免許状取得に必要な所要の単位に係る科目を開設し、学生に履修させることにより、制度上等しく教員養成に携わることができることとした(「開放制の教員養成」の原則)。」(中央教育審議会『今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)4.教員養成・免許制度の現状と課題より)としている。

 いわゆる途上国の中には、未だ初等教育段階の教員については教員養成学校 (Teacher Training School) で2年ないし3年間の修学で教員資格を付与する国も多いが、それらの国々でも大学または大学相当の教育機関へ教員養成の役割を担わせるよう改革に努めている場合が多い。この件について全ての例を挙げることはできないが、フィリピンやカンボジアなどが後期中等教育機関 (Normal School / Teacher Training Center) から高等教育機関 (University/College) へ教員養成の場を移行している。

 日本の教員免許制度は、相当免許主義で幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教員になるためには、原則として、学校の種類ごとの教員免許状が必要となる(中学校又は高等学校の教員になるためには学校の種類及び教科ごとの教員免許状が必要)。特別支援学校の教員になるためには、前述の基礎となる学校種の免許を取得すると共に特別支援教育の免許を取得する必要がある。

また教員免許状には三種類(普通・特別・臨時免許状)あり、都道府県教育委員会から授与される。普通免許状は全国で有効であるが、特別及び臨時免許状は授与を受けた都道府県内でのみ有効である。

 日本の場合、どの校種・教科の免許を取得するかによるが、教科及び教職に関する科目等を合わせて、幼稚園の場合は59単位以上、小学校・中学校・高等学校は67単位以上の修得が必要となるのが一般的である。さらに小学校・中学校の教員免許状を取得したい場合は、7日間以上の介護体験が必要となる。

 多くの国で日本と同様に相当免許主義をとっている。その場合、大別して就学前(日本の幼稚園に相当)、初等教育(日本の小学校に相当)、中等教育(日本の中高等学校に相当)の三つの免許区分があり、中等教育の場合は教科ごとの免許となっている場合が多い。

 例えばアメリカ合衆国の場合教員免許の種類は、それぞれの州により異なっているが、一般に就学前・初等・中等・ESL (English as a Second Language)・外国語・特別支援・管理に分けられる。中等教育の免許は日本と同様に教科ごとの免許で、多くの場合中等教育の教科免許取得には修士号以上の取得が要求される。教員免許取得の要件が州ごとに異なってはいるが、ほとんどの州は州間協定に署名しており、追加の認定要件が求められる場合もあるが、教員の州をまたいだ移動を容易にしている。

 日本を含め多くの国々で質の高い教員が必要とされている背景には、教員という職業の人気がいずれの国においてもそれほど高くない事が理由の一つとして挙げられる。要求される業務の質や量に比べてリターンである給与が他業種に比べ高くない事が最大の理由であろう。

(沼野太郎)

参考:中央教育審議会 (2006)『今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)』/三笠乙彦ほか (1996)『小学校教員養成の制度とカリキュラムに関する国際比較研究』, 東京学芸大学教育学研究室編/松浦伸和 (2011)『外国における教科教育学研究と教員養成(1)』, 日本教育学会誌34巻第3号/日本教育学会編/松浦伸和 (2012)『外国における教科教育学研究と教員養成(2)』, 日本教育学会誌35巻第3号/日本教育学会編/長島啓記 (2012)『大学院レベルでの教員養成・研修の国際比較』, 比較教育学研究第44号/日本比較教育学会編/『National Association of State Directors of Teacher Education and Certification』, https://www.nasdtec.net/, 最終アクセス日2023年5月26日/『Requirements and Programs for Teaching Certification』, https://teaching-certification.com/, 最終アクセス日2023年5月26日/『Philippine Normal University』, https://www.pnu.edu.ph/, 最終アクセス日2023年5月26日/『Phnon Penh Teacher Education College』, https://www.ptec.edu.kh/, 最終アクセス日2023年5月26日

 

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