女子教育 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】

2024.05.07

2-1-7 女子教育

 2020年における10か国の「教育段階別・男女別在籍率」「表2-9」を見ると、義務教育段階を含む初等中等教育段階では、男女間の在籍率にほとんど変化がない。すでに就学率の章で言及しているように初等中等教育の義務化は基本的にユニバーサルであり、同教育段階では男女間で提供される教育の差異は発生しない。他方で高等教育段階では、韓国と日本を除いた全ての国で女性の高等教育在籍率が高くなっている。これらの背景を明確に説明できないが、中国やベトナムのような社会主義国では人材育成の観点から、国からの支援によって高等教育進学者の学生納付金が低く抑えられており、経済的負担を余り考慮せずに高等教育進学の選択ができるということや、ジェンダーに関係なく科学技術分野へのキャリアが開かれていることから、女子が将来のキャリアを見据えて高等教育へ進学する割合が多くなっていると推測される。英国・ドイツ・フランス・アメリカでも女子の高等教育進学率が高くなっており、ジェンダーに左右されない社会参加の機会の整備などの要因が考えられる。

 「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」に2006年から参加している台湾では、2018年に実施された調査結果の公表時に読解力における性別の差異について述べており、2009年に行われた調査では、読解力において女子は男子よりも37点高かったが、2018年にはその差が22点にまで下がったとして教育の公平性の改善の一例としていた。PISAの結果で示されていることは、男子の方が女子よりも読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーのいずれにおいてもベースラインの習熟度レベルに達していない割合が多く、15歳段階で男子の方が全般的に女子よりも成績が低くなっている。その理由として男子と女子の行動の違いが挙げられており、女子の方が男子よりも1時間宿題に時間を費やすなど、学習や読書に費やす時間が多く、積極的に課題に取り組む姿勢が挙げられている。基本的に高等教育への進学に至るには、各教育段階の修得の積み重ねが重要であるため、この女子の学習姿勢の結果として高等教育進学率は女子の方が男子よりも高くなる傾向にある。日本や韓国など、女子の高等教育在籍率が男子よりも低い国では、学力以外の社会・文化的要因が存在するかもしれず、政策的な環境作りによる公平性の確保が必要かもしれない。

参考:「文部科学省、2020年、『諸外国の教育動向2019年度版』、明石書店」、「OECD「教育における男女格差の背景」2015年3月(https://www.oecd.org/pisa/pisaproducts/pisainfocus/PIF-49%20(jpn).pdf))」

(新井 聡)

本稿の内容は文部科学省を代表するものでなく、執筆者が公表資料等を参考に執筆したものである。

 

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